京大知的好奇心学

人文科学分野 熱帯の木の上に広がる植物の世界 地球はエンジン?―活動の原動力を探る―
これまでの講義

学びの実学と哲学

 

目次

 1.月と地球
 2.山脈の形成
 3.プレートの運動
 4.運動の原動力
  (1)エンジン
  (2)自然現象
 4.地球内部の熱対流
 5.おわりに

 

1. 月と地球

 今日は地球の話です.地球と月の表面は,何が違うのでしょうか.月には,クレーターと呼ばれる,円形の山脈に囲まれた窪地が沢山あります.これらは,月が出来たときに様々な大きさの星がぶつかって出来た地形です.ですから,月は月が出来た当時に形成された地形がそのまま残っているわけです.地球も月と同時期に出来たと考えられますので,出来たときにはクレーターが沢山あったはずです.しかし,現在の地球は月の様なクレーターだらけの地形ではありません.地球では,月と違って地表の地形がどんどん変化していっていると考えても良さそうです.
 地球には月と違って大気や水が存在しており,雨や河川の作用で山が削られて,低地にその土砂が溜まるという,浸食や堆積と呼ばれる作用が働いています.そうするとクレーターの地形もそれらの作用で無くなってしまいます.月ではそういう作用が働かないため,クレーターがそのまま残っています.しかし,地球で浸食や堆積の作用が働き続けると,地球の表面は遠い昔に平らになってしまっているはずです.しかし,現実には地球には巨大な山脈がいくつも存在しています.どうしてその様な地形が出来たのでしょうか?

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2. 山脈の形成

 地球の山脈の中には,浸食作用に打ち勝ってどんどん高くなっているものが数多く存在します.例えば世界で一番高いヒマラヤ山脈は,毎年数センチメートルずつ高くなっています.どうやら地球には,地面を隆起させていく(山脈を作る)作用があるようです.このように,地面をどんどん高くする作用のことを,「造山作用」と呼びます.
 実はヒマラヤ山脈は,大陸と大陸がぶつかって大陸が押し縮められることで出来たと考えられています.インドは昔1つの大陸で,現在よりもずっと南にありました.それがどんどん北に移動し,ユーラシア大陸に衝突しました.それでも北向きの移動は止まらず,ユーラシア大陸にめりこんでいって,ユーラシア大陸が押し縮められて高くなって出来たのがヒマラヤ山脈です(図1).大陸が移動し衝突して出来た地面の大きなしわが,山脈になっていくわけです.

図1 インド亜大陸とユーラシア大陸の衝突(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))
図1 インド亜大陸とユーラシア大陸の衝突(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))

 移動しているのはインド大陸だけではありません.地球上の全ての大陸は,年間に数センチメートルというゆっくりとした速さですが,地球の表層を動き続けています(図2).ですから,地球の陸と海の配置もどんどん変化し続けています.例えば,恐竜が栄えていた2億年くらい前は,大西洋はありませんでした.その当時は,ほとんどの大陸は1つにくっついてしまっていました.その大きな大陸は,パンゲアと呼ばれています.大陸は衝突してくっつくだけではなくて,分裂もします.パンゲア大陸はいくつかの大陸に分裂し,時間を経てばらばらになっていって,今の大陸の配置になりました.その際の大陸の裂け目に出来たのが現在の大西洋です.ではどうして大陸が移動するのでしょうか?

図2 大陸移動(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))
図2 大陸移動(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))

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3. プレートの運動

 地球は,卵と同じ様な構造をしています(図3).地球の中心には鉄でできた「核」と呼ばれるものがあり,その周りには「マントル」と「地殻」という層があります.マントルと地殻は共に岩石でできていますが,作っている岩石の種類が違います.この岩石の層の一番外側の部分はその内部と比べてとても固くなっていて,これを地球の殻と考える事が出来ます.この硬い殻は,地殻とマントルの最上部から成っています.この様に,地球は鉄の黄身の周りを岩石の白身がとりまき,一番外側に岩石の硬い殻が覆っているという層構造になっています.しかもこの硬い殻にはたくさんのひび割れがあり,ジグソーパズルの様に地球を覆っています.この地球を覆うジグソーパズルのそれぞれのピースを,プレートと呼んでいます(図4).大陸は,このプレートの一部を成しています.地球の半径は6,400kmくらいの球ですが,一番外側の殻に相当するプレートの厚さは,100kmくらいです.半径5センチメートルの卵があったとして,地球をそれに例えると,殻(プレート)の厚さは,0.8ミリメートル程度となります.本当に卵みたいでしょ.

図3 地球の構造(講師作成)
図3 地球の構造(講師作成)

 しかもこれらプレートは,地球の表層をそれぞれ違う方向に移動しています.ですから大陸の動きは,プレートの動きでもあるわけです.プレートが移動すると,プレートが衝突する場所,離れる場所,すれ違う場所が出来ます.プレートが衝突する時,プレートに大陸が乗っていなければ,衝突した片方のプレートが地球内部に沈んでいき,そこに海溝ができます.もし大陸が乗っていれば,大陸が衝突して大きな山脈が作られます.プレートが離れていく場所は,主には海底の大山脈の海嶺と呼ばれるところです.そこでは,新しいプレートが常に形成されています.

図4 プレートの分布(黒色矢印はプレートの運動方向を示す)(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))
図4 プレートの分布(黒色矢印はプレートの運動方向を示す)(出典:アメリカ地質調査所(一部加筆))

 日本は,複数のプレートが接する境界地帯に位置しています(図5).太平洋プレートは日本に衝突する方向に動いていますが,太平洋プレートに大陸が乗っていないので大きな山脈はできず,日本海溝で日本の下にもぐっていきます.南の方にはフィリピン海プレートがあって,北西方向に移動しています.このプレートも同様に日本の下にもぐっていきます.このように,太平洋プレートやフィリピン海プレートが日本に押し寄せてきているため,日本では地震・火山などの大きな活動が起こります.地球上では,地震や火山,山脈形成等の大地の変動は,主に日本の様なプレートの境界地帯で生じます(図6).では,なぜこれらのプレートが移動するのでしょうか?

図5 日本周辺のプレート(出典:内閣府ホームページhttp://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h16/index.htm 2013年8月9日9時52分)
図5 日本周辺のプレート(出典:内閣府ホームページ
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h16/index.htm 2013年8月9日9時52分)
図6 プレートの境界域で生じる現象(黄色の点は地震の震央,赤い三角は活火山を示す)(出典:アメリカ航空宇宙局)
図6 プレートの境界域で生じる現象(黄色の点は地震の震央,赤い三角は活火山を示す)
(出典:アメリカ航空宇宙局)

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4. 運動の原動力

 

(1)エンジン

 身近なところから考えていきましょう.例えば,自動車はエンジンで動いています.エンジンはガソリンを燃やして,ピストン運動を起こすことによって,自動車を動かしています.ガソリンを燃やして熱を発生させ,その熱エネルギーの一部で,車を動かしているわけです.
 発電機もそうです.例えば火力発電ですと,石油などを燃やしてその熱で蒸気を発生させて,その蒸気の力でタービンを回して発電します.つまり,何かを燃やしたときに発生する熱でものを動かしており,「熱」によって動く「エンジン」であると言うことも出来ます.このようなエンジンを「熱機関」と呼びます.

 

(2)自然現象

 では,自然界はどうでしょうか.外に出るとたいてい風が吹いています.風は空気の流れ(運動)です.なぜ風が吹くのでしょうか?焚き火をすると,煙が上がっていきます.たき火で温められた空気はまわりの空気よりも密度が小さく軽いので,その浮力で上昇していきます.温度の違いがあると,それによって密度に差が生じて,その密度差により流れが生じます.この様な温度差によって流れが生じる現象を,熱対流と呼びます.
 もっと大きなスケールの大気の流れは,雲によって知る事が出来ます.太陽の光が地面にあたると,地表面を温めます.そうすると地上の大気が温められて,密度が軽くなって上昇します.上昇する空気の中では雲が出来やすくなります.入道雲,つまり積乱雲のようにもくもくと上にのびていく雲は,この様な上昇する空気の中で出来たと考えられます.上昇した空気は,ある高さまで上がると横方向に流れて冷えていきます.そして,どこかで下降し,また地表で温められるという循環が起こります.この場合空気が流れる原動力は,太陽からの熱エネルギーということになります(図7).

図7 大気の循環(講師作成)
図7 大気の循環(講師作成)

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5. 地球内部の熱対流

 自動車を動かしたり,風が吹いたりするためには,何らかの熱エネルギーが必要でした.自動車は燃料を燃やした熱,空気は太陽からの熱によって運動していました.では,プレートも同じように熱によって動いているのでしょうか(図4).
 先に,地球内部は中心に鉄の芯があり,その周りを岩石の層が取り巻いており,一番外側を硬いプレートが覆っているという,卵の様な構造をしていると言いました.その岩石の層もプレートも固体です.しかし,固体といえども,力をかければゆっくり流れます.例えば,氷河は氷で出来ています.氷は固体ですが,川の様に流れています.流れの速度は,川の水の様には速くありませんが,一日数メートル程度の速度では流れることができます.ですから,固体でも長い時間を考えれば,水の様な流体として考えて良いと考えられます.
 では,地球の内部の温度はどの程度なのでしょうか?実ははとても熱いのです(図8).1,000~
2,000kmの深さにあるマントルの中心で,大体2,000℃程度の温度であると考えられています.岩石の層の最下部である3,000kmくらいの深さだと,3,500~4,000℃くらいになります.地表付近だと1kmくらい深くなると,温度は地表に比べて10~30℃くらい上がります.1~2kmくらいの深さに水があったら,温泉になります.このように地表付近と地球深部の間には大きな温度差があるので,それによって生じる密度差で熱対流が起こっていると考えられます.

図8 マントルの温度(講師作成) 
図8 マントルの温度(講師作成) 

 お味噌汁が入ったお椀を思い出してみてください.お味噌汁の場合はお味噌が浮いているので,その流れがよくわかります.外側は冷たいため,熱いお味噌汁の熱は冷たい外側に逃げていき,お椀の中に温度差が生じます.この温度の違いによる密度差で,流れが生じます.表面で水平に移動し,その間に冷やされて重くなって沈んでいきます.そして冷えた部分が暖かい底の方へ沈んでいき,暖かい部分が上昇して表面で冷やされます.この様な循環は,内部の高温部分から表面の低温部分に熱を輸送する働きがあり,それによってみそ汁は冷えていきます.
 地球もこれと同じです(図9).内部は地表に比べてかなり高温です.地表で冷やされて冷たくなったものが地球内部に沈んでいきます.そして内部の高温の岩石が上昇してきます.お味噌汁がお椀のなかで循環するように,マントルでも,地球内部の熱エネルギーによって流れが生じています.この流れにより地球内部の熱は外部に放出されます.プレート運動は,この熱によるマントルの流れであるマントル対流の一部として運動しており,地球内部を冷やすクーラーの様な働きをしています.日本の下に,太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈んでいくのも,プレートが地表から冷やされて熱を放出し重くなったからです.このプレートの運動によって,地震や津波,山脈形成や火山活動など,様々な活動が起こっています.
 マントル対流の速度は大変ゆっくりで,年間数センチメートル程度です.これは,人間の爪や髪の毛がのびるのと同程度の速さです.このゆっくりとした速度だと太平洋を横切る距離を移動するのに数億年かかりますが,地球の年齢は現在約45億年であると考えられていますので,地球に大きな変動を生じさせるには十分な速度です.
 地球の中心にある核も,同じように熱対流しています.この対流により核では電流が発生しています.つまり核は,巨大な発電機であるわけです.電流が流れると磁場が生じるので,核では磁場も発生します.これが,地球が磁石になっている理由であると考えられています.おかげでコンパスを持っていれば,すぐにどちらが北かがわかります.
 熱は温度が高いところから低いところへと伝わっていきます.熱対流では,物の流れによって熱が運ばれます.地球では,熱対流によって地球の中心の核からその周りの岩石層,宇宙空間へと熱が伝わっていきます.つまり,地球内部は熱をエネルギー源として活動する一つのシステムであると考える事が出来ます.
 今日の結論は,地球は熱のエネルギーによって働いている熱機関だということです.地球の表層の空気や海水は,太陽からの熱エネルギーによって動いています.地球内部でも,地球内部の熱エネルギーを原動力にして,マントル対流や核の対流が生じています.地球内部は,お味噌汁と同じように流れています.その流れにより,地震や火山,磁場発生などの活動が引き起こされる訳です.地球内部は内部の高温部分から外部の低温部分へと向かう熱の流れによってつながった,一つのシステムであると考える事が出来ます.

図9 地球内部の熱対流(講師作成) 
図9 地球内部の熱対流(講師作成) 

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6. おわりに

 当たり前だと思う様なことでも,よく考えてみるとなぜそうなのか良く解らないということが身の周りには沢山あるのではないでしょうか.山があるのは当たり前だけど,なぜ山があるのか考えていったら,どこかで解らなくなりませんでしたか?身の周りでそういう不思議なものを探してみましょう.不思議なことが見つかれば,それをよく観察していろいろなことを考えているうちに,ある時「そうだったんだ」と気付きます.それはすごく楽しいことです.そういう楽しさを,皆さんにも味わってもらいたいと思います.

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(講義日)
2012年5月19日

講師:古川善紹
講演当時の所属
京都大学大学院理学研究科

略歴
東京大学大学院理学系研究科修了
京都大学理学部助手
京都大学大学院理学研究科准教授(現在)

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